老いを受け入れる】

未経験の「老いる」ことへの対策




想像力をはたらかせる

 「そうぞうりょく」という言葉を聞くと、新しいものを生み出すcreationの「創造」と、頭に思い描くimaginationの「想像」があります。快適な環境をつくるためにはどちらの要素も必要ですが、まず最初に必要なのは未来をイメージする力imaginationの「想像力」です。

 誰しも年を取り、老いていきます。想像できるでしょうか。これは今までに経験したことがない、未知の世界なのです。もちろん年を取った人を見たことがない人はいないでしょう。

 しかし老いを自分で経験しているわけではありません。山に登っている人の映像を見ることと、実際に山に登るのではまったく違うと言えばわかりやすいでしょうか。つまり未知の経験を頭の中でシミュレーションする、未来の予測をしてみることです。

 なんだか難しそうだと思われるかもしれませんが、手はじめにまず自分がこれから老いるということを受け容れることです。これが簡単なことではありません。口ではもう年だと言いながら、内心はまだまだ若いという気持ちが誰だってあるものです。

 実際に昔の人に比べると今の年寄りは若く、年齢の八掛け、つまり今の七〇歳は昔の五十六歳くらいともいわれています。たしかに栄養、医療、住環境は戦前、戦後に比べてよくなっているのでしょう。けれど一つひとつ年を重ねていくのは紛れもない現実です。そんな話はしたくない、考えたくないという人にこそ、ぜひとも考えていただきたいのです。

具体的には、これから膝が痛い、腰が重いなど体の不調が出てきます。そのような老化による不調が自分の身にも起こること、またそのときの備えについて、想像力を使って備える、つまりシミュレーションをしていただきたいのです。

これは普段の生活ももちろんですが、次の自然災害や家庭内の事故にも当てはまります。


 ここで80代のある女性の話をご紹介しましょう。一人暮らしのこの方は時々病院に行くことはあっても、介護を受けるほどではない、つまり自分のことは自分でできると、暮らしておられました。ある日、姪が訪れて昼食をともにしました。食事の後片付けを終えた姪がふと見ると、叔母の驚くべき光景を目にしました。

どんなことが起こっていたと思われますか。

あるものの上に乗って、天袋のものを取ろうとしていたのです。

そのあるものとは? ソファです。なーんだと思われますかもしれませんが、まだその先があるのです。ソファの座るところ、座面ではありません。ソファのアームと呼ばれる横のひじ掛けに乗っていたのです。その光景を見た姪はわが目を疑いました。

 踏み台に乗るならまだしも、ソファのアームとは、信じられない。そこで姪は、叔母を驚かさないように注意して、下に降りるように言いました。

次に、危ないからアームに乗るのはやめた方がいいと言いました。

すると叔母は、いつもやっているから大丈夫とよと、すまして答えました。

 皆さんはどう思われますか。どう考えても危ないですよね。

 高齢になるとバランス感覚が衰えるので踏み台に乗るのも危ないというのに、よりにも寄ってソファのひじ掛けです。

しかしこれには無理もない事情もありました。一人暮らしなので、自分で衣替えの入れ替えもしなければなりません。そしてそのソファは重く、一人では動かせないのです。つまり踏み台を持ってくるスペースがない。だからソファを利用しようとなったわけです。

姪は言いました。もしソファアから落ちて倒れていても、誰も助けを呼んでくれないのよ。連絡がないから来てみたら、床で冷たくなっているおばさんを見つけるのはごめんだから。

しかしこの80代の女性は、今までやっていたことだからこれからも大丈夫。そして万が一、ソファアから落ちたらどうなるかということを考えもしなかったようです。

つまり、シュミレーションができていなかったということです。

危ない、危ないと、頭ごなしに行動を制限するのは考えものですが、どのようなことが起こりうるかというシュミレーションをしてみることも安全な暮らしにつながるでしょう。

『心と暮らしを軽くする『老前整理』入門』より             

                                        


問題別     

・なぜ片づけられなかったか⇒理由

・50歳からの暮らしを創造する ⇒老前整理のナッジA(自分史年表)

・家族のコミュニケーション⇒老前整理だからできる

・このままではものは増えるばかり⇒なぜ老前なのか

未経験の老いることへの対策老いを受け入れる

・「いつかやろう」を解決する⇒老前整理のナッジ@(カレンダー)

・安全について⇒暮らしと安全

・災害について⇒災害への備え

・ひとり暮らしになったら⇒老前整理をするために

・子どもたちに託すこと⇒仏壇や墓のこと

・子どものいないご夫婦⇒2人で今後の計画を立てる

・高齢の親の家の片付け⇒ゴミ屋敷にならないか心配!

・親の介護中⇒介護をしている人ほど、自分を大切にしよう!

・家族の遺品整理は一筋縄ではいかない⇒「もの」の整理「心」の整理

・空家で困っている⇒実例紹介

・体調がわるいとき⇒焦らない

・男性の老前整理⇒はじめの一歩